誰にでも、忘れられないがある…

〜夏が来れば思い出す〜♪:パート1『1978 summer』〜

『サムライ(沢田研二)』、『炎(西城秀樹)』、『かもめが飛んだ日(渡辺真知子)』、
『勝手にシンドバット(サザン・オールスターズ)』、『かもめはかもめ(研ナオコ)』、
『林檎殺人事件(郷ひろみ&樹木希林)』『サウスポー(ピンク・レディー)』など、
ちょっと古いが俺のカラオケ・レパートリーである。
これら全て『ザ・ベストテン(TBS系)』全盛の1978年に流行した歌だ。
特にこの頃のジュリー(沢田研二)は前年に『勝手にしやがれ』で賞を総ナメにし、
飛ぶ鳥を落とす勢いでピンク・レディーと競うかの如くヒット曲を連発していた。
小学6年生の俺はジュリーの大ファンで、今でも歌詞を見ずに歌える。
だからどうした、と言う訳ではないが…。

時代は空前のSFブーム、映画『スター・ウォーズ』が公開されたのもこの年だった。
コカ・コーラの王冠の裏をめくると『スター・ウォーズ』のキャラクターが描いていた。
俺はと言うとあまり夢見がちなSFには興味がなく、どちらかと言えば『太陽にほえろ』
『大都会』(西部警察の前身)のような現実的なドラマが好きだった。ガキのくせに…。
だから、コカ・コーラの王冠の裏がスーパー・カーからスター・ウォーズになった事に
随分憤慨していたのだった。でも、『宇宙戦艦ヤマト』だけは別で大好きだった。
前年『宇宙戦艦ヤマト』の劇場版が公開されたが、これはテレビシリーズをまとめた
だけだったので新たな感動はなかった。
あの夏…、1978年。原因不明の下痢に悩まされ、体力がすごく低下していた。
市内の学校対抗の野球大会は優勝候補だったにも関わらず一回戦で敗退し、
夏休みに入ってすぐに暇になってしまった。心身ともに抜け殻のようになって毎日
訳もなく自転車で放浪する変なガキになっていた。それも大きな声でヒット曲を
歌いながらなので、よけい変なガキに見えただろう。
そんな空虚な俺に、ある日一筋の光が差し込んだ。
『さらば宇宙戦艦ヤマト 〜愛の戦士たち〜』を観た。カルチャーショックだった。
個性溢れるキャラクター達が地球を守る為に戦い、次々と命を落として行くのである。
前作では敵役だったデスラー総統が最後は味方になり、そしてカッコよく死んで行くし、
ラストは生き残った乗組員を降ろし、古代進が一人で操縦して敵に向かって行った。
いや、一人ではない。死んだ仲間がそれぞれの持ち場に座っている。
そして古代に向かって笑みを浮かべる。古代もそれにうなづく。
ここで俺の視界は涙で遮られた。まだ終わりではない。
涙を拭いて目を凝らすと静かに画面の奥に消えていくヤマト。
もうダメだ。涙が止まらない。
少しの沈黙やがて…、ピカッ!号泣!!
すかさず流れる歌声「その人の優しさ〜が〜、星に勝る〜な〜ら〜…♪」
ジュ〜リ〜!!!(テーマ曲『ヤマトより愛をこめて(沢田研二)』)
さらに追い打ちをかける字幕。「今までヤマトを愛してくださった皆様へ、
もう二度とお会いする事はないでしょう。ヤマトは永遠に旅立ちました…。」

ヤマト〜!帰って来てくれ〜!!!!!
…立てなかった、客電が点き現実の世界に連れ戻されても俺は席を立てなかった。
本当にカルチャーショックだった。
今までこんな感動があっただろうか?ない!あるはずはない!11歳と半年の俺に
あるはずがない。もともとマンガを描くのが好きだっが、いつも中途半端で最後まで
描き切った事がなかった。俺は本気でマンガを描く気になった。
「いつか俺も人を感動させる物語を描くのだ!」と、この時決意したのだ。
映画館を出てすぐに文房具店で新しいノートを買った。それも分厚い分厚いノートを。
「卒業するまでに、この分厚いノートを埋め尽くしてやる!」
5ページも書いたためしがない三日坊主の心を、ヤマトは揺さぶったのである。
空虚だった夏休みの残り半分が、何だか楽しくなった。

あれから24年、あれほど感動する物語にはまだ出会っていない。だからと言って
もう一度あの作品を見ようとは思わない。それは、あの時ほど感動できない事が
分かっているから、実は俺が感動したのは物語にではなく、こんなに感動している
自分に感動していた事が分かっているからである。
心の隙間をヤマトが埋めてくれた、ただそれだけの事なのだ。
だから、感動したという記憶だけあればいい。



 【後日談】
感動の夏は過ぎ、秋になると新しいテレビシリーズになると噂で聞いた。
これは見逃せない。ビデオなどなかった時代だ、俺はテレビにかじりついた。
毎週毎週欠かさず。おや、何かおかしいぞ?と、思いながら見ていたのだが、
気が付いたのは最終回だった。
誰も死なんし、それどころか最後はヤマトまで生き残っとるやんけ!
どないなっとるんじゃ!映画とストーリーが違うぞ!
…落ち着け落ち着け、俺ももうすぐ中学生や、大人にならなあかん。
まぁ、しゃ〜ないの〜、スイッチを入れたらすぐに見られるテレビと、
劇場までわざわざ足を運んで見る映画とは違うからな。と、
納得した直後にまた噂を聞いた。
『宇宙戦艦ヤマト』映画化決定?
何で死んだんちゃうん嘘やろ嘘やと言うてくれ!
半信半疑のまま時は過ぎ、その日はやって来た。
はぁ〜?『宇宙戦艦ヤマト 〜新たなる旅立ち〜』???
何ぃ〜?死ななかったテレビシリーズの続編やと〜っ?????
お、おちょくっとんのかーっ!
おまけに、まるで『さらば宇宙戦艦ヤマト 〜愛の戦士たち〜』など
なかった事のように言うとる!
俺のあの涙は何やったんや?
俺のあの感動の夏は何やったんやーッ!

くそ〜、いたいけな少年の心をもてあそびやがって!
責任者出て来〜い!!!

その後、俺がグレたのは言うまでもない。

 【さらに後日談】
俺の心を逆撫でするかのように、その後もヤマトは何作か劇場版を作っていた。
俺はかたくなに見向きもしなかったが、時代と共にヤマト人気も廃れていった。
あの夏から20年ほど経ったある日、新聞を見て俺は吹き出し、転げて笑ってしまった。
どうやら制作会社が倒産したらしい。その記事の見出しが、
「宇宙戦艦ヤマト沈没!」
ざまぁ見ろじゃ〜!

以上、
夏の思い出というよりは『宇宙戦艦ヤマト』に裏切られた男の話になってしまったな。

 【もっと後日談】
このネタは酒を飲んで酔っ払った時にいつも語られる。一番付き合いの古い神崎仁は
もう20回以上もこの話を聞かされて参っていると言う。しかし、不思議なのは毎回毎回
微妙に設定とか、怒りの度合いとかその他諸々が違うらしい。
それは仕方ないのだ。俺は舞台作家だから、その日の調子と雰囲気で変わるのさ〜♪

とにかく!これだけは観ておけ!