探索18日目

長い長い階段を、下りた先は…… どこまでも続く、薄暗い山道だった。灯りは少なく、そして険しいけもの道。 いつ、木や岩のかげから襲われるかわからない。 わたしの目は遠くは見えるけどただそれだけだから、こんな暗くて邪魔物だらけの場所ではあんまり役に立たない。 ひとは昼に動いて夜に寝る生き物だから、暗いところでは不安になるようにできている。 お日様の光が届かない不安。先に進んだ人たちが出会った、強い強い魔物の情報。どこから襲われるかわからない怖さ。 冒険にはもう、だいぶ慣れたつもりだった―――けど、甘すぎた。 わたしにとって、誰にも負けないたったひとつの頼み、『目』。 それが使えないだけで、こんなにも心細くなるなんて。 心臓が、つぶれてしまいそう。 こんなところでも、普段通りの冷静な態度を崩さない、エニシダさんとフォウトさんは本当にすごい…… ―――普段の態度を崩さないひとは、もうひとりいた。 一列に並んだ九人の一番後ろから――― 聞き慣れた歌声が、聞こえてきた。 勇ましくて、激しくて……それでいてどこか優しそうな、英雄の歌。 わたしは、男のひとの歌声が好き。 女のひとがやさしく歌うのは、すごくきれいだけど。 特にアーヴィンさんみたいな、普段はどちらかと言うと豪快そうな男の人が、 たまにちょっとだけ優しさの混ざった声で歌うのが、すごく好き。 こんなところで歌ったら、かえって魔物を呼んでしまわないだろうか。そんな心配の声もあがった。 だけど、この暗くて狭い山道で息をひそめ、心細さに耐えてずっと感覚をとがらせるよりは――― みんなの声が、息遣いが感じられた方が、ずっとずっといい。 アーヴィンさんが一通り歌い終わった頃に―――闇の中に、何かが光った。 低いうなり声。これは、けものの気配。 あれだけわたしの心臓を締めつけていた不安は、どこかに飛んでしまっていた。 ここから先の探索は、まだまだ命がいくつあっても足りなさそう。それなら――― 今はただ、生きて帰る。 ……みんなで。

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