関連活動

NPO法人の設立によせて

医療法人南彦根クリニック 上ノ山一寛  

 平成2年に南彦根クリニックを開業しましたのでちょうど10年になります。平成3年からは土曜会が発足し、月に一回の患者家族懇談会や研修会を開いてきました。平成10年からは土曜会メンバー有志による土曜会喫茶が開かれ、患者家族が自由に参加できるサロンの役割を果たしてきました。平成11年には土曜会が発展的に解消し、NPO法人サタデーピアとして認可を受け、共同作業所の設立運動をしたり、研修会講演会を開催するなど、精神保健福祉の領域で積極的な活動を行っています。NPO法人設立前後の精神保健福祉の状況を、診療所を中心として簡単にまとめてみたいと思います。

 これまでの日本の精神科医療は精神病院を中心に展開されてきました。脱施設化がさけばれ、コミュニティケアの必要性は長らく論じられてきましたが、なかなか中身が伴いませんでした。全病床数の2割を超える30数万の精神科病床を維持し続けることを、国が保護してきましたし、市民社会もいったん病気になった人を排除して安定をはかる傾向がありました。その結果、精神科医療全体が閉鎖的で暗い印象を拭うことができませんでした。

 しかし今日、地域精神医療の重要な担い手として精神科診療所が登場し、その数が急速に増加していく傾向にあります。街なかで気軽に受診したり相談したりできる場所へのニーズが高まってきているように思います。平成12年4月現在、日本精神病院協会の会員数は1215に対して、日本精神神経科診療所協会の会員数は1034(未組織の診療所を入れるとその3倍)となっています。滋賀県でも精神科入院病床を有する病院12に対して、滋賀県精神神経科診療所協会会員は10です。診療所を中心とした、地域での生活に密着した精神科医療が展開され、コミュニティケアが充実していくことが期待されていると思います。

 昭和58年(1983年)に始まった国連・障害者の10年をうけて、日本の精神科医療の閉鎖性を変えていく動きが加速されました。それはちょうど、精神科診療所の増加などにともなう通院精神医療の充実と、精神障害への福祉的サービス重視への流れと平行してきたように思います。

 平成5年(1993年)12月には障害者基本法が制定されました。それまで精神障害に対しては、身体障害、知的障害に比べて福祉サービスが立ち遅れていました。精神障害に対する社会的偏見、権利擁護運動の低迷、そして精神障害の定義をめぐる混乱などが背景にありました。精神障害は精神の病気のためにさまざまな日常生活上の制限を有する状態、として他障害と同等のサービスを受ける権利をもつ「障害」として認知されたわけです。

 その後次々と、新しい精神保健福祉施策が押し進められています。平成7年(1995年)障害者プランが策定され、市町村には精神障害者を含む障害者支援計画の策定が求められました。平成7(1995)年にはこれまでの精神保健法が、精神保健福祉法と名称変更され、医学モデルと生活モデルの統合が図られました。そして今春(2000年)の法改正に至っています。

 今回の改正では地域生活支援センターが単独の社会復帰施設として認められ、二次医療圏に2ヵ所の設置が想定されています。彦根地区では三障害合同の地域生活支援センター構想が、実施されることになっています。地域生活支援の在り方の全国的なモデルとのことです。

 今回の改正ではさらにグループホーム、ホームヘルプ、ショートステイなどの在宅福祉サービスの充実が進められることになりました。これらの在宅福祉事業は、市町村が中心となって、平成14年までに実施していくことになっています。これまで精神保健福祉活動は保健所が中心となって行なってきましたが、今後は身近な市町村の責任において実施されていくことになります。今年4月の介護保険の実施に引き続いて、市町村の役割が大変重要になってきたわけです。滋賀県では彦根市がモデル地区となって、ホームヘルプサービスを中心とした、精神障害者介護等支援サービス(ケアマネジメント)試行事業が始まっています。ケアマネジメントとはさまざまな社会資源やサービスを結び付けて障害者の地域生活を支援していく活動です。それが可能となるような社会資源はまだまだ不足しているのが現状ですので、それ程簡単には進まないでしょうが、関係機関が連携して精神保健福祉の充実を計っていかなければならないと思います。

 その際、診療所は地域での生活支援の中心になると思います。これまでも往診や訪問看護、予約診療や夜間診療、デイケアやサロン活動、などを行ってきました。特にデイケアは精神科リハビリテーションの有力な手段になっています。種々のグループ活動を通して、自己表現能力や社会性の向上をめざしています。精神科救急でも重要な役割を果たしています。応急入院などのハードな救急が注目されがちですが、ソフトな救急も重要です。診療所が普段行っている相談業務や電話での危機介入などが、多くの場面で入院に至る事態を防いでいると思います。最近の精神保健福祉施策の進展において、医学モデルの縮小と脱施設化、それと表裏の関係にある、生活モデルの拡大、地域での生活支援の充実が大きな流れとしてあるのは事実です。しかし精神科領域では症状の軽減や再発予防など医学的管理の必要な部分は他障害に比べてかなり多いと考えられます。医学的関わりと福祉的関わりの接点に位置する診療所の役割は今後ますます大きくなると考えています。
以上、最近の精神保健福祉について、主に精神科診療所の観点から述べました。今後ともNPO法人と診療所の活動が、連携しながら共に発展していけるよう願っています。

「よっ!」支え合い共に生きていくために(2000/12発行)より引用




お問い合わせはこちら!ご連絡は mihikocl@biwako.ne.jp までお願い申し上げます。
(病気・診療に関するお問い合わせにはお応えできません。)
Copyright (c), サイト内の無断複製および引用を禁じます。