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「安らぐ居場所」
                     上ノ山一寛(精神科医)  

 私の安らぐ居場所といえば、間違いなくあの部屋である。
生涯を通して私の心身の健康を保ち、見守ってくれているあの場所である。
 日曜の朝などはゆっくり新聞に目を通しながら世界情勢に思いを馳せ、またある時には読書に勤しみ哲学する場所でもある。多くの方がお察しのように私の最も「安らぐ居場所」といえば、便所である。そこで人は自律を学び、公私の区別を知るのである。
 
 最も私的な「安らぐ居場所」が便所であるとすれば、
もう一方の公共の居場所としてぜひとも紹介したい所がある。
それは、障害者共同作業所「夢工房if」である。

 「夢工房if」は、私どもの精神科診療所をご利用の皆さんが
中心になって設立したNPO法人が運営している喫茶店である。
 焼き立てのクレープと香り高いコーヒーが自慢の小さな店だ。
地域の方々からの差し入れのさつま芋やカボチャを使ったケーキやアイスクリームはすべて手作りで絶品である。テーブルや椅子も地域の方々の手で山から切り出して作ったものだ。

 障害者共同作業所は障害を持つとされている方々が、
社会参加の第一歩を踏み出すための就労の場とされている。
店の二階では、牛乳パックで作った正座椅子や
刺し子の手芸品なども製造販売し、好評を得ている。
 まもなく開店5周年を迎える「夢工房if」は、
ただ就労の場であるばかりでなく、
作業所に通所する人たちと職員とボランティアとお客さんとが、
優しさや思いやりを交感し育む場所となっている。

 世界に目を向ければ、暴力や憎しみの連鎖が続いている。
小さな「安らぐ居場所」で育まれる優しさや思いやりの連鎖こそが、暴力に対する最も有効な対抗手段に成り得るのではないかと、今日も私は「あの部屋」で懸命に考えている。

2006年3月発行 雑誌『上方芸能』 第159号より引用



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