心の病について


うつ病治療に対する最近の話題  

 1999.10.16  南彦根クリニック 上ノ山一寛  

 平成10年の一年間の自殺者が三万人を超えたことが大きく報じられたことは記憶に新しい。この中にうつ病の割合はかなり多いと思われる。WHOの調査によれば、疾病が社会に与える影響の大きさの点で、21世紀では虚血性心疾患についでうつ病が第2位の疾患となることが予想されている。生涯有病率が約15%に達しており、一般内科受診者の6〜10%に及ぶとされている。

 これまで精神障害を成因からみて、外因性、内因性、心因性とわけ、うつ病(躁うつ病)は分裂病とともに内因性精神病に分類される場合と、神経症性うつ病として心因性疾患に分類される場合があった。内因とは、未だ明確になっていない身体的基盤をもつ原因のことであり、心因とは心理的原因のことである。神経症とは精神分析理論を背景にもつ言葉であるが一般には症状の軽いものという使われ方をしてきた。今日ではこれらの分類はあまり使用されない。

 うつ病の本態は今日必ずしも明かになっているわけではない。従来、うつ病は躁うつ病の一部として分類されることが多かったが、今日、感情(気分)障害のなかに、両者が並列的にとりいれられている。精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM4)によれば気分障害に属するのは(1)大うつ病、(2)気分変調性障害、(3)双極1型障害、(4)双極2型障害、(5)気分循環性障害、(6)その他である。

 何らかの原因によって、ストレス脆弱性をもった人がストレス状況下において、脳内の情報伝達障害を引き起こし、うつ病発症に至ると考えられている。

 ストレス状況と精神分析でいう対象喪失とは関連していることが多い。すなわち親しい人や愛着の対象を失うことや、なれ親しんだ環境や地位の変化など、喪失に関わる状況がストレスを発生しやすい。日本人に多いとされる、他者を尊重し、秩序を愛するメランコリー親和型性格がこのような状況で破綻しやすいとされてきたが、実証されているわけではない。

 社会的規範や価値観が十分内在化してはじめて罪の意識や自責感が形成されると考えられるので、うつ病の発症ピークは40才代であるが、小児や高齢者でも発病しうる。今日社会的規範の希薄化、価値観の多様化、社会的ストレスの増大などを背景に、うつ病の軽症化や慢性化が指摘されている。

 うつ病の精神症状としては(1)ゆううつ気分、(2)内的・外的抑制、(3)不安焦燥感があり、身体症状としては(1)睡眠障害、(2)食欲低下、(3)性欲減退、(4)自律神経症状などがある。身体症状で抑うつ症状が隠された状態は仮面うつ病とよばれる。

 うつ病治療の基本は抗うつ薬である。抗うつ薬の研究、それに関連する脳内情報伝達系の研究の進歩が内因性や神経症性の概念をゆるがしてきた面がある。薬物療法に加えて、対人関係療法や認知療法が組み込まれることが多い。気分の障害に対して、対人関係や認知面からの多様な働きかけが試みられている。

1999年10月彦根医師会学術講演会抄録より引用




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