探索手記-23日目-

 フレッシュゴーレム相手に短剣で挑むのは無謀だった。体力もスピードも無い私の攻撃は、あのぷにぷにとした身体に阻まれて毛ほどの傷をつける事もなかった。  魔力を纏わせた斬撃でさえも有効なダメージにはならず、逆に近づいた所に連打を貰い、その連撃で私の意識は闇へと落ちた。  気がついた時にはアーヴィンさんが介抱をしてくれていた。辺りにフレッシュゴーレムは居ない。どうやら、二人だけで倒してくれたらしい。  魔術戦闘であれば、恐らくもっと楽に勝てていたハズだ。修練のためとはいえ少し申し訳ない。  戦闘を終えて集合地点へと向かう。点呼──人数が足りなかった。最年少の二人がどうやらはぐれてしまったらしい。  ここで待つかどうか、協議となった。その結果私達が取る事になった行動は、前進。彼女達も探索者であるならば、目の前の困難を排除して現れるだろう。  私達は(少なくとも私は)メンバーそれぞれを「一人立ちしている冒険者」と見なしている。戦闘を伴う探索に身を置く以上、初心者もベテランも等しく「冒険者」なのだ。そこに甘えが介在する余地は無い。  私達の目の前にある物。それは、巨大な蟻地獄…そして、その前に立ちはだかる「棲む者達」。  互いに心配する事は、「他の隊が目の前に立ち塞がるものを倒す事が出来るかどうか」のみだ。それ以外の心配は必要無い。  複数隊行動をする冒険者はまず戦果を案じ、その次に無事を案じる。ある意味では戦争狂に通じる部分もあるが、これは厳然たる事実だ。  その事実に基づいて、私達は私達の戦闘を終わらせよう。  探索速報に載らない特殊な模擬戦を行った。  訓練用の空間、とでも言おうか。そこで負った傷は外に出た直後に消え、疲労と記憶、精神ダメージのみが残るという特殊な場。そこで私は交流のある人二人と一戦づつの模擬戦を行ったのだ。  一人はサーベルタイガーをルーツに持つ少年、ノイバー君。  もう一人はミステリアスな科学者、イスラさん。  共に格闘術を得手とする、近接戦闘者だ。短剣を扱う上では近接戦闘の経験も積まなくてはならない。ショートレンジでの魔法の運用方法にはまだ不安があった。  模擬戦の結果は一敗一分けに終わった。  ノイバー君とは短剣を得物とした戦闘を挑んだのだが、彼が魔術も扱える事を失念し、メィレィで反射された魔法を回避する隙を突かれてハートブレイクショットを貰って敗け。  イスラさんと魔石二連装での戦闘を挑み、挟撃への対応策を読まれてアッパーカットとどうにか相討ち、引き分け。  近接戦闘への対応策はまだまだ甘いようだ。カルマートで扱っていた弓矢を再び取るべきだろうか。  しかし短剣戦闘は気に入っている。少しの間、ここで悩む事にしよう。  ノイバー君にきっちりリベンジを果たし、イスラさんと決着を着ける為に。

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