7日目の日記

そろそろ皆の疲労の色が色濃く、食糧も底を尽きかけている。 弱音を吐く者が居ないのは立派なものだが、口にはしないだけだろう。 帰還の頃合い、だろうか。無理は禁物だ。 エゼに頼んで新調したインバネスは見事な出来であった。 赤い枝に秘められた魔力もさることながらエゼの職人としての腕も褒めておくべきだろう。    ……思ったよりも赤く仕上がったのはやや、誤算か。まあ、かまわんが。 今日の相手は毒百足と甲殻蚯蚓。 毒百足は毒にさえ気をつければ最早どうということもない相手なのだが。 甲殻蚯蚓はその名の通り、装甲を身に纏った巨大な蚯蚓。 装甲の継ぎ目を狙わねばならんので吹き矢使いの俺としては多少、相性が悪いか。 体節の構成上、狙う節目は多いので狙えるポイントは多いのだが体躯が大きく、生命力も強いので 動かなくなるまで片っ端から撃ち込むしかない。急所を捉え難い、というのはやはり厄介だ。 まあ、壁や石よりはまだ、マシか。 そして、装甲を纏っていても蚯蚓は蚯蚓。特性は基本的にそのままだ。 体節にはスパイクの機能を果たす剛毛を備えていてサイズもそのまま肥大化しているので 馬鹿に出来ない攻撃力を備えることになる。そしてそこに頑丈な装甲が追加される。 ぜん動運動と鞭のようにしなる動きによってサフィの歩行雑草がズタズタに引き裂かれていた。 ……助かった、というべきなのだろうか。少し複雑な心境ではある。 僅かな間とはいえ旅をともにした仲間だ。情も、移る。 蚯蚓を腑分けして使えそうな箇所を採取。思ったよりも使える箇所が少なかったのは残念だ。 蚯蚓を食す、というと眉をひそめる輩が多いが、蚯蚓は栄養価豊富で優秀な食材として古来より 各地で食されている。此処の現地民にとって甲殻蚯蚓は御馳走扱いだ。 一番槍が特別いい肉をもらえる、らしい。 今日の作製は……まあ、極普通、といったところか。 木材から矢を作り出す作業。いつもと比べればどうということもない。 おかげで時間が確保出来たので試作と槍の練習をすることが出来た。 針で仕留めそこねた、接近を許してしまった、そんな状況にも対応出来るように。 手持ちの武器を増やすよりも即座に対応出来る方が好ましい。持ち替えるその時間が惜しい。 複合武器が持つ問題は難しいが……まあ、なんとかしてみよう。 思考錯誤を繰り返すのは嫌いじゃない。 ----------------------------------- この日は“森”の方の依頼で、とある会場にツーマンセルで潜入することになった。 条件が男女ペアで、とのことだったのでフォウトと組むことに。 詳細については明かすことが出来ないので伏せておく。任務、だからな。 久方ぶりの正装もまぁ、悪くはないな。……無駄に目立ってしまった感もあるが。 時間が無かったので依頼主に衣装選びを任せてしまったのが問題か。 衣装と言えば、フォウトのドレス姿という珍しいものを拝むことが出来た。 本人は動きづらいだのなんだの文句をたれていたが、案外似合っていたな。悪くない。 やはり素材は悪くないのだよなあの女も……勿体ない、とは言わんが。 仕事ではなく、普通の、ただ楽しむ為のパーティにも連れていってやれたらいいのにな。 それは、余計な世話だろうか。 華やかな場、祝祭の夜。それを打ち砕く、血腥い兇行。 まぁ、俺達には似合いの聖夜だったろうか。 地の底を這いずり、命のやり取りで飯を食う、そんなろくでなしどもには。 ――真白い雪を、赤く紅く染めて。

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