探索10日目


やはり濃密な日々は、探索を初めて短い日数であるのに数ヶ月が経過したように感じられる。
実際私とその他数名は”森”に出向くこともあるので、体感時間も狂ってしまっているのかもしれないが。

何だか各所で不穏な噂の対象にされているようだ。どう考えても向こうに迷惑だと思うのだが、少なくとも当人の表面からはそれは読み取れない。
どうでもいいのか、内心大迷惑なのか。何となく前者である気がするので、私も見習うことにしよう。
人の噂も七十五日と昔から言う。じきに人々も飽きるだろう。

……―――75回の戦闘の後、と考えて一気に暗澹たる気分になった。



さておき、エニシダさんに黒い宝石から短剣を作ってもらうはずだっだのだが、私のバカなミスでその機会が立ち消えてしまったのだ。
……非常に申し訳ないことをしてしまった。

ビヴァークの最中に謝罪をしようと赴いたのだが、氏はあまり気にしておらず、別の武器の製作に取りかかっている最中だった。
何となく傍で見学をしていたのだが、凄い手捌きと集中力、手際の良さだ。

エニシダさんに限らず、エゼ君やサフィさん、セレナさんなど、ものを作り上げる人は本当に凄い。
物凄くバイタリティが必要そうなことなのに。

もちろん彼らの足元にも及びはしないだろうが、私にも何か作れたらいいのにと思う。今まで生きて来た軌跡を取り入れたものであるならば武器―――それも小型の隠し持てるようなものを作れはしないだろうか。

それをエニシダさんに言ってみたところ、ならば初歩でもやってみるかということになり、期せずして武器製作講座になってしまった。
確かに小さな隠し持てそうな武器は、私のみならず武具を以て戦うメンバーに欲しいところだ。

しかし、氏の教え方は容赦と遠慮がない。それは望む所だったが、分からない所や質問はてきぱきとこなさないとついて行かれない。
氏にとっては手慣らしなのだろうが、私にとっての作成の練習はハードだ。擦り傷や小さな火傷を随分と作ってしまった。

おかげで日記すらままならない。このページが随分と白い項目になってしまったが仕方ない。
明日こそメンバーに関しての考察とメモを書こう。

慣れぬことをしたおかげで、睡眠を取る時分にはもうヘトヘトだった。だがおかげで、ここのところよく見る戦災による『死』の悪夢からは解放され、柔らかな闇に包まれて深く眠ることが出来た。
ここまで安寧を得ることが出来たのは、ここ数年では珍しい。



―――少なくともこの面々と共に居る間は、比較的真っ当な精神状態でいられるような気がする。
そう信じたい。

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