探索13日目

探索十三日目。
いよいよ次の日にかの獣使いに挑むということで、我々 Triad Chain は砂地にビヴァーグしつつ最後の戦力調整に入っていた。
皆、武具の調整や合成などで大わらわだ。暇を見てその端材で武器を作る真似事もやってみるが、これがなかなか難しそうなのだった。

セレナさんがてきぱきと武具―――正確に言うと魔石だが―――の調整を行っている。
かなりややこしい手順らしく、パーティメンバーだけでは手が足りないので、近くにいた者を捕まえて頼んだりしていた。強かというか、逞しいと言うか。
一見色白で華奢な女性で赤い瞳を除けば街娘のような風貌だが、その実冒険者暦は私よりもずっと長いのだ。人間以外の種のようだが、あまりそれを意識させない明るい言動はどこかホッとさせられるのだ。

いつもは要領よく立ち回っている彼女ですら、斯様なややこしい魔石を作らねばならない相手。私達に勝機はあるのだろうか。




いつもの野営、いつもの順番。明日にはここを発つことになる……とぼんやりと考えていたら、またしても訪れる者が居た。
だが、今夜はかの狼ではなく、エニシダさんだった。

茶を飲みながら、ぽつりぽつりとお互いの話をした。とは言っても深入りしすぎることはなく(氏が元既婚者だったのには少し驚いたが)、お互いどこか一線を引いていたし、それもやはり互いに感じ取っている。
故にか、逆に白々しくはなく、どこか落ち着いた気分だった。

時折、私とこの御仁が恋仲にあるのでは、といった根も葉もない噂を聞く。アーヴィンさんやアルクさんにまで言われたのは少々頭が痛いところだが、まあ、状況的には分からなくもない。

斯様な噂話を立てられてさぞや迷惑だろうと聞こうとしたのだが、そんなことはなかったらしく、逆に同じ事を謝られてしまった。互いに胸中は似たようなものだったらしい。少し可笑しくなってしまう。
確かにこの御仁とそのような関係であることを嫌がる輩は居ないだろう。私だってそうかもしれない。

―――だが。
私も一応、過去に何度か人を好きになったことはある(残念ながらそれを表面に出すことは無かったので成就したことはないが)。
その時の胸中が熱くなるような感覚や状態は覚えており、ともすれば通常時にも平静さを欠いてしまいかねないものだと分かっている。

しかし、氏と居るときにはそれはないのだ。
逆に、平静さが強化される。
安寧を得るとか、安心するといったものではない。研ぎ澄まされるのだ。

戦いの前、任務の前、冒険の前。そこで揺らいだ精神は死に繋がる。
平静を保つことが常となった私は、心に波が立つといつも頭の中に刃を思い浮かべるのだ。
極限まで研ぎ澄まされ、しんと静寂をその上に乗せる、鈍く光る刃を。

―――氏と居るときは、その感覚がある。
戦地で気配をどこかに感じているとき、話しているとき、そしてあの紅い瞳を覗き込んだとき。
熱を冷まし、研ぎ澄ます、心地よい感覚。


これは、噂されるような恋心ではない、と思う。
何か別の、未知の感覚だ。
だが、その正体は分からない。



時が来れば分かるのだろうか。

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