探索18日目

探索十八日目。
現在地は巨大な遺跡の地下二階だが、程なく歩いたところに地下三階への入り口が発見されたとの情報があった。
しかし、現時点でも相当に獰猛な物怪が出現するというのに、その下へと赴くなどはリスク以外の何者でもないだろう。

実際に以前二度ほど練習試合をした派手な衣の娘率いる隊が、強力無比な物怪に出会って帰還を余儀なくされたらしい。
彼女たちは決して弱いわけではない。ここの物怪どもが強力すぎるのだ―――。

そして、我々Triad Chain の前に立ちはだかるのは、巨大な角を持った獣に白い虎、そして冷気を纏った飛行する怪物である。
今の距離では遠目に見えるだけだが、こちらが発見されるのは時間の問題だろう。

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最近知ったのだが、例の「バレンタインデー」という行事、あれの対となる行事がある。「ホワイトデー」というのだそうだ。
つまりはバレンタインデーの贈り物のお返しをするのだそうだが、冷静に考えてみると、バレンタインデーにかこつけて愛の告白とやらをした女性に、男性はその心に答えるとも義務的とも取れるお返しをすればいいのだから、どことなく不公平なイベントではなかろうかと思ってしまう。

どのみち、私には縁がない行事だ。前に贈ってしまったあれは、行事の意味合いを酷く勘違いしていたので、勘定には入らないだろう。
あれはてっきり、死んで欲しくない相手に贈るものだと思っていた。

ちなみに他の女性?からも貰っていた当の本人は、義理堅いことにしっかりと返礼を行っていたようだ。
斯様な関係を少女のように夢見ているわけでは断じてないが、私には何もないようである。これは義務的・義理的な事すらするまでもない程度の存在と取られていると考えていいのだろうか。
―――まあ、それならそれで、いい。そういうことなのだろう。



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夜間のビヴァーグを利用して、早急に幻術の調整を行った。
先日発動させるには至ったが、そう簡単に火種の増幅というわけにはいかない。
ましてや「仙導」と呼ばれる、東方少数民族独特の術。
西方の異界から力を引き出して具現化する類のものではなく、これは現世全てを構成している「式」を組み立てて行使する術なのだ。

母上の故郷に口伝で伝わる術。
仙導には善悪の境目はない。「神や悪魔や人間や異形その他全て混在するものが、現世を構成している」という概念があり、その構成は恐ろしく複雑な図象の方程式で表されている。

が、元を質していくと「陰と陽」が全ての始まりであり、その組み合わせによって様々な表記―――効果が生まれ出るのだ。
本来であればそれらを自らの精神修行で編み出し、組み立てていくのだが。生憎私にはその技術と時間的余裕がないのだ。

そこで私が取った法は―――「式」の力場ではなく、「式を構成する現世のもの」を使って火種の術を増幅することだった。

「供物」という概念ならば分かり易いだろうか。これだとあまり強力な術を使うことは敵わないが、私には丁度いい。
供物―――薬草や力の篭もった草、鉱物、セレナさんが作った魔石の研磨屑、エニシダさんが使う錬金術の副産物など、使えそうなもので「仙薬」を作り、術の増幅を図るのだ。

「仙導」の概念の初歩であれば頭に入っている。母上や兄者のようにスマートにはいかないだろうが、敵の目を眩ませることくらいはできるかもしれない。

自分が持つ全ての技術を、出し惜しみせず生き残るのに使う。

眼前で親しい人が死ぬのはもうみたくないから。
自分の力が及ばず、仲間が死ぬのには耐えられないから。

そして……もう一度死ぬのは嫌だから。

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