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「精神科診療所東奔西走」滋賀県から

一般社団法人滋賀県精神科診療所協会
会長 上ノ山一寛

 滋賀県の自慢といえば、日本一の湖である琵琶湖の存在です。滋賀県の面積の6分の1を占め、一周は約200qあります。湖岸に立って、比叡、比良、伊吹、鈴鹿の峰々を見渡し、湖面を渡る風に身を任せながら、この地に生きた人々の歴史に思いを馳せるのは、密やかな楽しみです。万葉の恋に憧れ、芭蕉の侘びを味わい、信長・秀吉の夢を辿り、直弼の無念を偲ぶなど挙げれば切りがありません。近江商人はこの地を出て全国に展開し、多くの一流企業を育てました。「売り手良し、買い手良し、世間良し」という三方よしの精神は、私たち精神科医療に携わる者にとっても大切な心得になっています。
 2015年の都道府県別の男性平均寿命は、滋賀県が81.78歳で、長らく1位を続けていた長野県を抜いて1位となりました。東京大学の調査によれば、2015年の健康寿命も男女とも滋賀県が日本一だそうです。男性の健康寿命と平均寿命は、スポーツ、趣味・娯楽、学習・自己啓発・訓練の行動者率が相関し、女性はボランティア行動などが相関しているとのこと。滋賀県男性の喫煙率が2016年に初めて全国一低くなったようで、県としては「健康しが・たばこ対策指針」を策定し、禁煙支援などの対策を掲げたことが奏功したと自慢しています。

 1996年4月、日本精神神経科診療所協会に属する3診療所(湖南クリニック、におの浜クリニック、南彦根クリニック)が集まり、滋賀県精神神経科診療所協会が設立されました。その後、滋賀県下で開業したほゞ全ての精神科診療所の参加を得て、現在は21診療所30名の会員で構成されています。琵琶湖東岸を走るJR沿線に精神科診療所が点在しています。県西部は精神科診療所の空白地域となっています。
2014年12月には一 般社団法人の資格を取得し、名称を滋賀県精神科診療所協会に変更しました。会員診療所は全て日精診に所属しています。メーリングリストで全ての診療所がつながり、情報伝達、意見交換を行っています。災害時のみならず、診療所医師が急病で倒れたときの協力体制を構築する一環として、全会員の夜間・休日の救急連絡網を作成しています。
 滋精診事業としては、こころの病の理解のための講演会を年2 回、産業医会と合同で産業メンタルヘルス研修会を年1 回、児童青年期講演会を年1 回行っています。その他に産婦人科医会と合同で妊産婦メンタルヘルスケア研修会を開催しています。これらすべての事業はメーカーの協賛を受けず、全て会員の手弁当で開催されています。
 精神科救急への取組みとしては、滋精診21診療所全てが精神科救急輪番診療所体制に参加し、年間2回から6回、平日夜間の一次救急を担っています。また、措置診察協力には14名の指定医が参加し、年間2〜5回の措置診察を行っています。また、13診療所が精神科救急情報センターに夜間休日の連絡先の届け出を行い、自院に通院中の患者について、救急情報センターからの問い合わせに対応することにしています。
輪番診療所体制は、県の精神科救急システム要綱に基づく、平日夜間の一次救急受け入れ体制ですが、コストパフォーマンスが必ずしも良いとは言えません。一方で、多くの市町・保健所では、自殺未遂者や引きこもり事例、さらに地域で事例化した未受診者などを抱えて苦慮しています。そのような事例に対して、輪番診療所体制として、市町・保健所受診枠を設けることも、診療所の行う初期救急の一つのあり方であると考えて精神科救急システムの見直しを申し入れているところです。
 自殺対策としては、県の委託を受けて、2010年度から自殺未遂者対策検討会事業を開催してきました。救急告示病院、精神科病院、精神科診療所などから出された事例を相互に検討するなかで、県に対していくつかの提言を行ってきました。2015年以降は県の補助が打ち切られましたが、その後も協会独自事業として継続しています。
 彦根市では市立病院(精神科を持たない総合病院)に自殺未遂者が受診した場合、ご本人の同意に基づいて「相談窓口連絡票」が市の担当に送られ、必要に応じて医療機関等に連絡がとられます。市内の2精神科診療所は持ち回りで、「彦根市自殺未遂者受診枠」を設けて、早期の受診に繋げる体制を構築しています。この取り組みが県下に拡大し、2014年から県立精神保健福祉センターでも「湖南いのちサポート相談事業」が実施されています。
 2017年度精神保健福祉資料(630調査)によれば、人口万対精神科ベッド数は全国26.9床に対して、滋賀県は17.0で、全都道府県の中で神奈川県に次いで最下位から2番目です。このような少ない病床の下では、地域の精神科医療従事者が手を携え、協力連携しながら地域精神科医療を充実させていかざるを得ません。少ない病床であることが、むしろアドバンテージとなり、独自のネットワークモデルを構築できたらと考えています。

(日精診ジャーナル 45巻3号 2019年5月号抜粋)




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