探索14日目

カチッ。 誰かが得物を納める音がした。 月の無い夜。 隣ではパチパチと焚き火が燃えている。 勢いが強いのは、フォウトさんが巧みに木を組んだからだろう。 籠手を外し、入念に拭く。 冷たい床。 一層、炎の温かさが身に染みる。 未だ、僕の身体は震えていた。 昨晩より、いや昨日の朝から続く震え。 初めは、恐怖だと思っていた。 あの紅の翼達に、恐れを抱いたのだと。 自分の体が情けなくてたまらなかった。 しかし。 昼間、彼らと相見えた時。 不思議なことに震えは止まっていた。 ……どうして。 カシャッ。 再び音がした。 うっかり手入れしていた籠手を落としたようだ。 慌てて拾いあげる。 顔を上げた時、エニシダさんと視線があった。 紅い瞳。 あの瞳は恐れなど無縁なのだろう。 カシッ。 またしても音。 アルテイシアさんが装甲のチェックをしている。 常に冷静な方。やはり、恐れとは無縁のように思える。 ぱちっ。 舞い散る火の粉。 炎の奥に、サフィさんの姿が見える。 両瞳の色の違う女性。僕と1つ違い。 でも、彼女は強い。友達の死を、堪えられるのだから。 その横に座っているのは歩行雑草の少女。 いつも誰かを励ましてくれる。人以上に人、なのかもしれない。 ドンッ。 思わず微笑んだ時、不意に背中を叩かれた。 アーヴィンさんだ。軽いようで……やっぱり軽い人。 しかし、いつも明るい姿勢には見習うべきところがある。 案の定ギターを持っていた。これで協力技を出すとか、冗談だろう。 ……え? 無理やり歌わされれそうになったところ、止めてくれたのはナミサさんだ。 大乱戦の戦術を確認する。眼鏡だけあって、鋭い分析だ。 いや、それは失礼か。僕と3つ違い。落ち着いた人だ。 もっとも、意外にお茶目な部分もある。 とん、とん。 お二人、というよりアーヴィンさんの横から離れた時、肩を叩かれた。 振り向くと、紅い瞳。 セレナさんだ。年上の、不思議な女性。 瞳には気遣いの色が見えた。 心を見透かされそうな、瞳。思わず目を逸らした。 かちゃ、り。 セレナさんとの話が終わり、静かに足甲を外す。 駆動部分だけはもう一度確認する必要があった。 ふと、隣を見る。 風になびく、銀の髪。 いつしかフォウトさんが座っていた。 お互い無言で炎を見つめる。 突然、昨夜の夢が思い出された。 苦しい感情と共に、炎が大きく揺らめく。 紅い炎の中、最後まで自分の目の前にいたのは…… 知らず、体が震える。 また、隣を見た。 変わらず前をみつめる銀髪の女性。 不思議な感覚だった。 姉がいれば、こう感じるものだろうか。 ガタッ。 気付くと、いつの間にかテントの中だった。 身体には毛布がかけられている。 …また、夢だったのか? ただ感じたのは。 ひとりではない、ということ。 いつしか、震えは止まっていた。 ―――――そんな、決戦前夜。

NEXT INDEX