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理事としての抱負

医療法人南彦根クリニック 上ノ山一寛 

 滋賀県彦根市で精神科診療所を開業して10年になります。それまで約15年間精神科病院に勤務していました。

 病院でのチーム医療にはそれなりに魅力を感じていましたが、一方で大きな組織に守られて治療関係が安易に流れていく不安を感じていました。診療所では患者家族との関係は、サービスの提供者とその受け手=消費者というシンプルでかつ緊張感のある関係になります。権威主義、医師中心主義、パターナリズムなど、病院時代に余分に身につけていたものをそぎ落として、消費者のニーズににそって考えていくことが求められます。生活に近い場で見ていくことによって、病院で見るのとは違った病像に出会える可能性が高くなります。また患者家族も、本来もっている潜在能力を発揮しやすくなると思います。

 精神科の敷居が低くなり、様々な問題を抱えた人々が診療所を訪れるようになっています。現在の一般的な診断基準に当てはまらない人もかなりいます。そういう人達との出会いの中から新しい精神医学が生まれる可能性があるように思います。その意味で診療所は時代の風を感じる絶好の場所だといえます。

 診療所は良くも悪くも個人開業が中心ですから、院長の考え方でどのようにも変わりうる柔軟性を持っていますが、院長が判断ミスをした場合のチェック体制を用意しておく必要があります。そのためには、診療所も複数の医師をはじめ、複数の職種とチームを組むことが望ましいと思います。そのうえで地域に開かれている必要性があります。診療所からの情報発信と地域の諸機関との連携を積極的に求めていく必要があります。

 日本の精神科医療の歴史は長いあいだ精神病院を中心に展開されてきました。しかし今日、精神科診療所が地域精神医療の主要な担い手として登場するに至っています。平成12年4月現在、日本精神病院協会の会員数は1215に対して、日本精神神経科診療所協会の会員数は1034となっています。診療所を中心とした、生活に密着した場所での精神科医療の展開によってコミュニティケアの内実が豊かになっていくものと期待されます。

 私は理事としてデイケア社会復帰委員会と児童青少年関連問題委員会に参加させていただきます。課題は山積しています。たとえば、精神科診療所デイケアは施設基準が厳しいため、日精診協会員での実施率は15%にすぎません。診療所の潜在能力をもっと引き出していく必要があります。

 また地域での生活支援に関連して、精神科ケアマネジメントが準備されています。精神科領域では他障害の領域に比べて、症状の軽減や再発予防など医学的管理を要請されることが多いため、診療所医師の積極的な関わりが必要と思います。 

 さらに多くの診療所医師は学校や教育委員会など関係機関の嘱託などをしておられます。一対一の治療を引き受けていくだけでなく、地域、学校、家族の問題対処能力を高めていくようなコンサルテーション活動への期待が大きいと思います。 

 課題を挙げていくときりがありませんが、少しでもお役に立てたらと考えています。ご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。

日本精神神経科診療所協会誌 第6巻第3号(2000/11)より引用




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