探索9日目


出発前に見た夢は何だったのだろう。そそり立つ黒い蛇を持つ戦士が戦いを挑んでくる凄惨な……

ともかく我々9人複合パーティ「Triad Chain」は、再度遺跡に潜ることとなった。 早速いつものスリーマンセルのグループが3つとなって探索を開始する。

それにしても、改めて見回すと実に奇怪な遺跡だ。
島は決して小さいものではないのに、島全体が遺跡となっている。故に水場や山岳地帯が存在するわけであるが、ここまで巨大な建造物はかつて見聞きしたことがない。

遺跡というものは狭い建造物が集まっているようなものかと思っていたが、これは都市型遺跡の巨大なものなのだろうか?  それとも先史の文明人の身体が大きかったのか、何か宗教的な意味合いがあるのか、あるいは全く我々とは概念の違う者が建立したものなのか。

私自身は考古学者ではないが故の推論でしかないが、何にせよつくづく認識を改めなければならない。
しかしその遺跡も、現在居る地上地点の天井は朽ちて居るところが多く、青空が大きく露出していることも珍しくない。
アルクさんが光合成を行うには都合が良いが、地下に潜るとなったらどうなってしまうのだろう。




―――ようやっとサフィさんは立ち直ったようだった。
少し前に捕縛した歩行雑草……彼女の言葉で言えば「おともだちになった」歩行雑草を失った悲しみをようやく受け止め切れたようだ。

メンバーの中には優しく彼女を労る者がおり、そうでなければ冷静に諸行無常と取る者が殆どだった。
もちろん私とて、悲しむ彼女に哀れみを覚えないわけではない。残された者の悲しみは大きいことも充分に知っている。 また、それを越えなければならないことも、越えれば精神的にも成長することも。

だが私には、「仲間である歩行雑草」の最期の、聞こえない断末魔が未だそこにある気がしていた。 真っ先に本能的に感じたのは、ごく一瞬だが強く沸き上がった死への嫌悪だった。

酷い話だ。労る気持ちよりも動物以下の本能が出てくるのか、と。 見知らぬ相対する者の断末魔には構わないのに、自分のカテゴリの中の者には構うのかと。
だが仕方ない。酷い上に申し訳ないとは思うが、仕方ない。


―――私は一度死んだことがあるからだ。


幼き日の戦火の中、炎上する街の瓦礫に飲み込まれ、傍に居た『おかあさん』と共に頭部破砕により即死した。

痛みはなかった。感じる暇もなかったのだろう。 だが瞬間に落とされた暗黒の深さや張り裂けそうな孤独感、狂いそうになる絶望感は未だによく覚えている。

氷のような黒い沼に沈められ、藻掻いても水面に頭が出ることはない。
どろりとしたタールのような闇が喉に詰まり、灰を破裂せんばかりに膨張させる。 頸椎から背骨に沿って、肋骨の隙間を縫って骨盤まで、粘液質の冷たい闇が滑り落ちてくる。

だがそれが『死』故に、それ以上死ぬこともない。そもそも頭も喉も肺もなく、藻掻く身体もない。
それが感じた『死』だった。
かの経験によって、私は死を嫌悪して遠ざけることとなった。

なのに今の私は、この腕で、この刃で、相対する者に同じ感覚を与え続けているのだ。 もはや冷静になる必要も激昂することもなく、機械であるアルテイシアさんよりも、おそらくは機械的に。
嫌悪した死を押しつけるかのように。


何処かから沸き上がる本能に突き動かされている。
一体何を求めているのか、私自身にも分からないのだ。

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